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端午の節句に鯉のぼりを掲げる風習は「家族」から「地域」へと移り変わっている。
しかしそれでも子の成長を願う親心は変わらない。

群馬県館林市の「世界一こいのぼりの里まつり」。市内中に計5000匹以上の鯉のぼりが掲げられ、桜並木の川岸を彩る

5月5日の端午の節句が近づくと、鯉のぼりを思い出す。

ずいぶん昔の話だが、実家の庭の片隅には直径20cmほどの穴が空いていた。いつもは板を乗せてふさがれているのだが、毎年4月になるとそこに長い木の竿を立て、鯉のぼりを掲げるのだ。

紐に吹き流しを取りつけ、黒くて大きな鯉のぼりから順に、赤や青の小さな鯉をつけていく。紐を引いて滑車を回す。鯉がどんどん上に登っていくのがうれしくて、掲揚するときにはいつも父や爺さんの傍らで手伝ったものだ。

中国の故事に、黄河を遡る鯉が、上流の滝を登りきると龍に姿を変えて天に昇ったという、立身出世に見立てた「鯉の滝登り」の話がある。

いまだ親の期待に応えられているとは思えないが、父や爺さんは息子の立身出世を願いながら、紐を引く手に力を込めたに違いない。

そもそも鯉のぼりは、江戸初期が発祥とされる。

武家では出陣の際や戦での武勲を示すときに、自軍や自らの家門の存在をアピールするのぼり(幟)を掲げる風習があった。しかし、徳川の太平の治世になると、戦で武勲を立てることができなくなった。

この頃から武家では、端午の節句で兜飾りやのぼりを掲げ、子孫の武運長久を願い、家門の発展を願うのが習わしとなる。

この風習は庶民にも広まった。ただ、武家ではないので家紋を描いたのぼりを掲げるのははばかられる。端午の節句には邪気をはらう行事としての意味もあり、陰陽五行に端を発する5色ののぼりが掲げられ、また、のちに中国の故事にある鯉を立身出世のシンボルとしたのぼりが用いられるようになった。

初めの素材は和紙で鯉の絵を描いたものであったのが、時代を経て破れない布に変わり、第2次大戦後に色落ちせずに強度のある人工繊維へと移り変わっていった。

生活環境の変化により都市化が進むと、住宅が密集し、大きな鯉のぼりを掲げることは難しくなった。鯉のぼりを掲げるためのスペースは確保しにくく、子どもは大きく成長し、手元には捨てるに捨てられない鯉のぼりだけが残った。

いま、この鯉のぼりを活用するイベントが、全国各地で行われている。

熊本県の杖立温泉がその嚆矢といえる。
観光協会によれば、杖立川の対岸にロープをつけたボールを投げ、鯉のぼりを吊るしてみたのが始まりとされる。38年前に始まったこの「鯉のぼり祭り」は次第に全国に広がり、各地で5月の町おこしイベントとして定着しつつある。

鯉のぼりを掲げる風習は、いまでは「家族」という枠を離れてしまったかもしれない。しかし、より多くの鯉が集まることで、これまでに見たことのないほどの、壮麗な光景を生んだ。

かつて子どものころに見た光景を再現し、風にたなびく鯉のぼりをわが子に見せたい。そう思う親心に変わりはない。

子どもの成長を託した鯉のぼりが、今年もまた大群となって、全国各地の川を遡上する。

●第30回杖立温泉鯉のぼり祭り
日程:4月1日(水)~5月6日(水)
開催地:熊本県阿蘇郡小国町杖立温泉
鯉のぼり数:3500匹
URL:http://blog.tourism-oguni.com/?eid=1119705
杖立川を幾重にも渡した鯉のぼりが圧巻。3500匹にもおよぶ鯉のぼりの群れが温泉地を彩る、夜はライトアップされ、イベントも行われる。

●第20回 竜神峡鯉のぼりまつり
日程:4月25日(土)~5月17日(日)
開催地:茨城県常陸太田市 竜神峡周辺、竜神大吊橋
鯉のぼり数:1000匹
URL:http://www.kanko-hitachiota.com/index.php?option=com_events&task=view_detail&agid=14
ダムにかかる日本最大規模の歩行者用吊橋で、375mの長さを誇る竜神大吊橋で開催される。この地は常陸秋そばの産地で有名で、地場産品の販売も行われる。

●第8回世界一こいのぼりの里まつり
日程:30月25日(水)~5月10日(日)
開催地:群馬県館林市 鶴生田川、近藤沼公園、つつじが岡パークイン、茂林寺川
鯉のぼり数:5000匹
http://www.utyututuji.jp/topic_koinobori/topic_koinobori.html
平成17年に5283匹の掲揚数でギネス世界記録に認定され、世界一の数を誇る鯉のぼりまつり。桜と鯉のぼりが同時に楽しめる。
< PROFILE >
長尾嘉津友
雑誌や書籍、ウェブなど、活字にまつわるメディアのプロデュースを手がけるエディトリアル・ディレクター。
旅行や写真が趣味であり、仕事。最近はクルーズに注目しています。
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