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  3. 湯船の底から湧き出る 自噴する「0m温泉」 群馬県みなかみ市・法師温泉
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文明開化の足音とともに発展してきた群馬の秘湯。それが法師温泉だ。国の登録有形文化財に指定されている宿舎と温泉施設には手入れが行き届き、源泉を大切にする湯守の精神が息づいていた。
法師温泉 長寿館
所在地:群馬県利根郡みなかみ町永井650
泉質:カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉 単純泉
源泉:42.7度、27.8度
日帰り入浴:10:30~14:00(13:30最終受付)
入浴料金:1000円(法師乃湯・長寿乃湯/水曜日・年末年始不可)
TEL:0278-66-0005


明治28年に建立された「法師乃湯」。20時~22時まで女性専用だが、それ以外は混浴だ


新しく作られた「玉城乃湯」。男女時間交代制。外には露天風呂がある


ベランダにさりげなく置かれたイスとテーブルにも風格がある


建物だけでなく、庭などにも手入れが行き届いている
写真:『温泉遺産』(実業之日本社刊)より
これまでに行った温泉の中でも、手掘りの野天風呂は鮮烈な記憶となって甦ってくる。

長野県秋山郷の切明温泉は川そのものが温泉で、初めて見る光景に度肝を抜かれた。
何組ものグループが、そこかしこに石囲いの浴槽を作って温泉を楽しんでいる。
川には水が流れているが、大地の底からお湯が湧いており、水の流れを少し調整すれば快適な湯温になるのだ。  

温泉達人の故・野口悦男氏と行った秋田県の秋の宮温泉郷も印象深かった。
スコップを片手に川原に下り、川底を掘りはじめる。たちまち温かな湯が足をなでるように流れていく。
石で流れをせき止め、少し深めに掘ると、それだけ体全体がすっぽり入る天然の湯船ができる。
地元の人には「川原の湯っこ」と呼ばれ、川原の湯にひたりながらラーメンなど出前を頼めるサービスがあることには驚いた。
温泉天国。
まさに極楽とはこういうことだ。

竹下内閣のふるさと創生資金で地方にばらまかれた1億円を原資にして、全国の町や村には日帰り温泉施設が雨後の筍のようにできた。
いまでは、日本のどこに行っても温泉に入ることができる。

火山国であり、伏流水が山から海へと流れ込むこの国では、ボーリングで1000mも掘れば地下水が出てくる。温かければ温泉に、水温が低くても沸かせば天然温泉と名乗ることができる。

たとえどんなに深いところからくみ上げようとも、それはそれで温泉を楽しむことはできる。
だが、古くから温泉と親しみ、自然の恩恵を受けてきた温泉地には、どうやっても勝てないような気になってしまうのだ。

温かい湯が自然に湧いて出ているような温泉地を訪ねると、その土地や住む人々から、独特な、余裕ある雰囲気を感じることがある。
それは、近年になって登場したボーリング温泉にはない雰囲気だ。

「内湯」について、考えを改めるきっかけになったのも、こうした自噴の温泉に出会う機会が増えたことが大きい。

それまで、温泉の醍醐味は露天風呂にあると思い込んでいた。  

だが、古くからある温泉宿の老朽化した建物の中に、原石のような「内湯」がひっそりと残っているのを“発見”したとき、温泉本来の姿がここにあることに気づかされたのだ。

それらの内湯は「自噴する湯船」だった。
浴槽の尻の下から、または岩の隙間から、自然に湯が湧き出している。

順序は逆で、自然に温泉が湧出するところに湯船を作り、雨が当たらないように屋根で覆い、のちにそれが浴室になったということだ。

だから、その湯船には歴史がある。

川の流れをせき止めてつくる野天風呂と同じ、フレッシュな天然そのものの温泉の原点が「0m温泉」、すなわち自噴する湯船にあるのだ。

今回取り上げる温泉も、湯船の底から自噴する「0m温泉」で有名な宿だ。  

かつて、国鉄(現JR)のフルムーンキャンペーンで、上原謙と高峰三枝子がふたりで入浴した温泉といえばピンとくる方もいるだろうか。
群馬県にある、法師温泉長寿館だ。

長寿館は、国道17号線を沼田から苗場スキー場へと向かい、県境の三国峠を越える手前の沢沿いにある。

『日本鉱泉誌』(内務省衛生局編纂)によると、発見は元禄12年(1699)。
明治9年(1876)~13年(1880)までの年間平均来場者数は1727人とあり、交通の不便なところでありながら、北越方面にその名はよく知られていたようで、人気ぶりがうかがえる。  

長寿館は明治5年(1872)に初代岡村貢(おかむらみつぎ)が創業した。新潟県南魚沼市の大庄屋に生まれ、南魚沼郡の初代郡長を務めた。
東京―新潟間を結ぶ上越線敷設を提唱し、自ら衆議院議員となって運動を展開。自費でルート調査とその測量を繰り返したという。
彼の銅像が、上越線石打駅にある。

明治8年(1875)に木造二階建ての本館が完成。現在も客室棟として使用されている。
廊下は黒光りするほどきれいに磨かれ、歴史の風格を感じさせる。
明治28年(1895)に「法師乃湯」を建築。昭和15年(1940)に別館が建てられた。
これらは国の登録有形文化財に指定されている。
宿泊棟はこれだけでなく、法師川が望める薫山荘は昭和53年(1978)に建立。昭和63年(1988)にやや高台の木立の中に建築され、平成元 年(1989)に建て替えられた法隆殿がある。
川端康成や直木三十五ら文人墨客も訪れ、本館20番は与謝野晶子逗留の間として知られている。

フルムーンポスターで撮影された湯船は「法師乃湯」だ。
建てられて120年近く経つこの内湯は、いまも混浴だ。
明治時代にイギリス人によって設計され、窓の丸いアーチと幾何学的な格子模様にモダンを感じる。
壁際の棚は脱衣用で、平成12年(2000)に男女別の脱衣所ができるまでの100年以上にわたって使われてきた。むかしからの法師温泉を知っている人はこちらを使用する。

平成12年(2000)には新しく「玉城乃湯」を建造した。
総檜造りで、壁面の窓のデザインは法師乃湯を踏襲している。
内風呂の外には露天風呂があり、カランや脱衣ロッカーも設けてある。

また、女性専用の浴槽として24時間入浴可能な「長寿乃湯」もある。

ミネラル分が豊富な、無色透明の湯。
かつては石膏泉と呼ばれた。
血管を拡げて血行をよくするので、血圧を下げたり、傷を癒す効能がある。

玉城乃湯の野天風呂のみ温度が低いために加熱しているが、他はすべて加温・加水をしない源泉100%かけ流し。
適度な湯温で湧出すればこその、自然からの恵みだ。

「法師乃湯」の浴槽の底には玉砂利が敷いてあり、よく見ると気泡が湧きあがっているのがわかる。源泉が風呂の真下にあるのだ。
地熱による恩恵を受けていることがダイレクトに伝わってくる。

自噴する湯船の「0m温泉」には、温泉本来が持つ力強さがある。

東京、長野方面からは、関越自動車道・月夜野ICから国道17号経由、猿ヶ京温泉を過ぎて県道261号線で約30分の行程。新潟方面からは関越自動車道・湯沢ICから国道17号線を南下して約40分かかる。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/
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