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長野県にある中房温泉は、北アルプス登山の中継基地として知られる。多くの登山者がここを起点に山に挑み、疲れたからだを癒す。じつは「温泉の博物館」といえるほど多彩な浴槽をもち、源泉を見学することができる。

温泉めぐりで近くを散策。裏の焼山で野菜蒸しもできる

中房温泉
所在地:長野県安曇野市穂高有明7226
TEL:0263-77-1488
営業期間:4月末~11月末(冬季閉鎖)
泉質:単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉)
泉温:56.2~95度


「大浴場」の湯口は豊富な湯が豪快に流れ込む


渓谷美を堪能しながら入れる露天風呂がいくつもあって飽きない。これは「白滝の湯」


風情のある木造建築で落ち着いて入れる「不老泉」


温泉内を散策すると地熱で蒸気を吹き出している源泉のありのままの姿が楽しめる


立ち寄り温泉「湯原の湯」
入湯料:700円
営業時間:9:30~16:00
営業期間:4月末~11月末(冬季閉鎖)
槍ヶ岳(3180m)といえば、登山を多少かじったことがある者なら、特別な憧憬を抱くものだ。
北アルプスで天を突くような急峻な形状。「日本のマッターホルン」と呼ばれ、一度は登ってみたいと思わせる魅力がある。  

たしか高校3年のときの国体会場が槍ヶ岳で、山岳部に所属していた私は、県予選優勝に賭けていた。優勝すれば、槍ヶ岳に登れるという単純な動機だった。当時の国体の登山競技は、決められた重量の荷物を背負って山を駆け、ある区間のタイムを競う。いまでいうトレイルランに近いが、ひとり20㎏以上の荷物を背負って山道を走るのは容易ではない。

残念ながら、われわれのパーティは優勝できず、全国大会の出場権はライバル校に渡った。だが、そのライバル校は、槍ヶ岳の大会で優勝したのだから、見事というしかなかった。

高校を卒業し、大学に通うために上京。それ以来、あれほど好きだった登山の世界に足を踏み入れたことはない。
それでも、槍ヶ岳の話題を耳にすると、敏感に反応してしまう。  現実の世界と槍ヶ岳を大きく阻んでいる理由のひとつは、山の懐の深さにある。登山口からのアプローチが長く、山小屋やテントを使って数泊しないと、山頂へたどり着くことはできないのだ。  

槍ヶ岳山頂へ至る登山ルートはいくつかある。大正時代になって本格的に開拓されるようになり、現在、おもなルートは7つを数える。

なかでも表銀座コースと呼ばれる、JR穂高駅側の中房温泉を起点に燕岳から向かうルートの人気が高い。槍ヶ岳を望みながら稜線伝いに向かう眺めのいい縦走路。
中房温泉―燕岳(2763m)―大天井岳(2922m)―東鎌尾根―槍ヶ岳という行程になる。

中房温泉から大天井ヒュッテまで7時間、大天井ヒュッテから槍ヶ岳直下の槍ヶ岳山荘まで6時間40分というのが標準的なコースタイム。
よほどトレーニングを積んで臨まないかぎり、いまの自分には往復できるだけの脚力がないのが悲しい。  

さて、表銀座コースの起点となる中房温泉は、「日本秘湯を守る会」にも所属する山間の一軒宿。
たんに秘湯と呼んでしまうにはもったいないほどの、源泉の魅力を堪能できる宿なのだ。  

自家源泉はなんと24本あまり。未利用源泉を含めると36本もあるというから驚きだ。毎分1500リットル以上という湧出量も一般的な温泉宿とはひと桁違う。

源泉は90度以上の高温泉で、加水、加温せずに自然冷却させながら、純度100%の温泉をすべての湯船に引き込んでいる。  

足湯や地熱浴場を含めると、浴場は16カ所。列記してみよう。

「大浴場」(内湯・混浴)、「大湯」(上は渓谷展望風呂、地下にはサウナあり)、「不老泉」(内湯・混浴)、「岩風呂」(半露天)、「白滝の湯」(半露天)、「滝の湯」(混浴・打たせ湯)、「菩薩の湯」(露天)、「月見の湯」(露天)、「御座の湯」(内湯)、「根っこ風呂」(ケヤキの切株)、「綿の湯」(足湯)、「蒸風呂」(地熱サウナ)、「地熱浴場」(温浴)、「湯原の湯」(露天4種・立ち寄り湯)

多くの源泉は見学することができ、これだけでも中房温泉が「源泉の博物館」との異名をとっても不思議ではないことがわかるかと思う。

ちなみに、混浴については女性専用時間帯を設けてあるので、女性でも安心して多くの湯船を堪能できる。  

中房温泉はかつては下山の登山者のみ、立ち寄り入浴を受け入れていた。
そこで、従来あった浴槽を平成18年に改装し、「湯原の湯」という日帰り専用野天風呂をオープン。一般客でも中房の湯を楽しめるようになった。  

中房温泉の開湯は1821年(文政4)。
百瀬茂八郎が松本藩の命により、明礬(みょうばん)の採掘するために湯小屋をはじめたのがきっかけとなっている。明礬は生糸をさらしてつやを出す時に使用され、松本藩の財政に寄与したという。

 『日本鉱泉誌』(内務省衛生局編纂・明治18年)には、源泉のうち「弾正湯、内湯、瀧湯、綿ノ湯、大湯、妙見湯」の泉質の記述がある。
弾正湯は岩から染み出る迫力ある源泉で、現在も「月見の湯」の源泉として山の壁面から噴出する光景を眺めることができる。  

中房の地の温泉が発見された年月は明らかにされていないが、伝承によると、804年(延暦23)に征夷大将軍・坂上田村麻呂が3度目の遠征に向かう際、傷ついた将兵を湯で治したという逸話がある。  

時を経て、上高地を再発見し、「日本アルプス」を著書で世界に広めたイギリス人宣教師ウォルター・ウェンストンが1912年(明治45)8月に中房温泉に来場する。

1916年(大正5)に東久邇宮成彦王が槍ヶ岳に登頂したのを契機に、周辺の登山道が整備されるようになる。
そして1920年(大正9)秋、穂高・牧の猟師小林喜作らにより、中房温泉から槍ヶ岳に向かう、当時最短ルートが開設されるのだ。  

中房温泉の歴史は、周辺のアルプスの山々へのルート開発の歴史でもある。  

ここを起点に槍ヶ岳に登ってみたい。
私にとって、叶わなかった夢と現実とをつなぐ唯一の接点が中房温泉にある。

これから何年経とうとも、槍ヶ岳への憧憬は変わることはないだろう。

中房温泉は道路がクローズする冬季は休業となる。立ち寄り温泉「湯原の湯」は宿よりも若干長く、ギリギリまで営業している場合がある。長野自動車道豊科ICより27㎞。山道に入る宮城(みやしろ)から約40分。カーナビで電話番号を設定すると手前にある国民宿舎有明荘になる場合があり、中房温泉へは林道をさらに奥に進む。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/
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