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  3. ヤケドや傷を早く治す隠し湯として武田信玄が愛用した奇跡の冷鉱泉 山梨県・下部温泉
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川中島の合戦で、武田信玄が上杉謙信から受けた刀傷を癒した隠し湯。そう伝えられているのが下部温泉だ。約30度、無色・無臭のアルカリ性単純泉だが、傷やヤケドの跡が早くきれいに治るとあって、首都圏からも多くの湯治客が訪れている。

下部温泉 古湯坊 源泉館
所在地:山梨県南巨摩郡身延町下部45番地
TEL:0556-36-0101
●泉質:アルカリ性単純泉
●源泉温度:29.6度
●湧出量:415リットル/分
●pH:8.0
●日帰り入浴:1000円(混浴/10:00~14:00)


混浴の「武田信玄公かくし湯大岩風呂」。浴槽の隅は意図的に岩盤を向き出しにして、この湯が自噴泉であることがわかるようになっている


日帰り入浴できる「かくし湯」のある別館入口


本館ロビーにはたくさんの古文書の写しが掲げてあった


お焚き上げのために奉納する松葉杖


熊野大神社では、毎年5月にお焚き上げの大祭が開催される


西湖越しの富士。ドライブも気持ちいい

富士川は最上川(山形県)、球磨川(熊本県)と並び、日本三大急流のひとつとして数え上げられている。
南アルプス北端の鋸岳(2685m・山梨県)に端を発し、甲府盆地から富士五湖の西側を南下して駿河湾(静岡県)へと抜ける。
延長距離は128㎞にもおよび、甲斐と駿河を結ぶ水運の要路として利用されてきた。

この富士川沿いの、日蓮宗総本山の身延山久遠寺と武田家の湯之奥金山遺跡にはさまれる地に、下部温泉はある。

下部温泉の歴史は古く、江戸後期に編纂された『甲斐国志』には、承和3年(836)に温泉が湧いた記録が残されている。地元のガイドブックやパンフレットに記載された開湯1200年とも伝えられる根拠はそこにある。

この夏、山と溪谷社より『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓するにあたり、取材過程で浮上してきた温泉宿があった。
それが下部温泉の、自然湧出温泉の浴槽をもつ「古湯坊源泉館」だった。

首都圏近郊の温泉地にはほぼくまなく足を運んだつもりだったが、下部温泉は未入湯であった。
というのも、下部温泉は源泉の温度が低い鉱泉で、沸かした温泉については一歩引いたモノの見方をしていたからだ。
源泉かけ流し至上主義の現在においては、沸かし湯はいわば“邪道”扱いされる風潮もなきにしもあらずだ。

だが、単行本の切り口となる「ぶくぶく自噴泉」は、自然湧出する温泉をそのまま浴槽にした風呂だけを掲載しようという試みだ。
しかも、首都圏周辺での「ぶくぶく自噴泉」はかなり珍しい。
百聞は一見にしかずだ。

中央自動車道・甲府南ICを下りて34㎞。身延線沿いを走る国道300号・本栖みちから下部温泉駅を抜け、山あいの集落に入るといよいよ温泉街が見えてきた。

古湯坊源泉館はその集落のほぼ一番奥にある。
「別館ホテル神泉」と書かれた建物の左手には鳥居があり、この階段を上ると裏山の熊野大神社へと続いているという。

本館入口には天然鉱泉水「信玄」の箱が積まれていて、この温泉水は入浴だけではなく、飲用でも人気が高いことが推測された。

鉱泉にもかかわらず、下部温泉を有名にしている理由のひとつに、“傷に効く”という効能が口コミで広まったことが挙げられる。
傷やヤケドをした人が定期的に入浴すると傷の治りが早く、しかもきれいに治るというのだ。
入浴棟の入口に、それを証明するかのような写真がいくつか貼ってあった。利用客の体験談と思われる、傷が完治するまでの過程が、写真と文章で解説してある。

左足内側を13針も縫う事故に遭った人が完治するまでの写真。
抜糸前の11月4日から断続的に入浴をはじめ、日付をたどると12月29日でほぼ完治しているのがわかる。抜糸後に皮膚の内側までえぐりとられたようになっていた傷が、見事に皮膚が再生して治っている。

宿のフロント入口には古文書の写しがいくつも掲げられており、それが武田信玄やその父・信虎の土地・浴場免許状であるのが興味深い。

下部温泉は武田信玄ゆかりの秘湯として宣伝されており、それを裏づけるしっかりとした根拠になっているのだ。
信玄をはじめ、たくさんの武将が合戦で受けた傷を癒したという話も信憑性が増してくる。

自噴・源泉かけ流しの浴槽はひとつで、その「武田信玄公かくし湯大岩風呂」は混浴になっている。宿泊者には女性専用の時間帯もあるが、水着は不可のため、日帰り入浴の時間帯は身にまとうバスタオルを各自用意するしかない。
一階の更衣室の扉を開けると、階段を下りたところに約15畳ほどの大風呂が広がっていた。浅めの板敷になっており、その隙間から温泉がこんこんと湧きあがってくる。
板材は栗で、湯の湧く岩盤の上に設置してから30年以上経つというのに、新品のようにぴかぴかだ。空気に触れないために腐らないのだという。

温度は約30度。入浴前は冷たいかと思ったが、体が冷えるほどでもない。
温かめの温泉プールといったところか。

入浴している方に話をうかがうと、みな近隣の都道府県や首都圏からこの湯を目的にやってきているという。
長逗留する人もいればときどきクルマで通ってくる人までさまざまだ。

浴場の壁に入浴法が掲げてあり、そこには、「一日平均5回、入浴は10分ないし30分とする」といった記述がある。
だが、低めの温泉に1時間以上つかったままでいる入浴客も珍しくない。
手持ち無沙汰のため、タオルを使って佐渡おけさのポーズをイメージした人形を作る方もいた。
互いに知らない者同士のはずなのに、長湯しているうちに妙な連帯感が生まれてくる。

入浴して不思議に思ったのは、手の指がふやけにくいことだった。筆者も30分以上入浴していたのだが、指にはほとんど変化がない。
浸透圧が原因とするなら、ナトリウムイオンがふんだんに含まれていることがふやけにくい理由かもしれない。

このほか傷が治る理由としては、水の酸化度が低い、フレッシュな還元系の温泉であること。カルシウムイオン、硫酸イオンの比率が高めで、石膏泉タイプの単純泉であること、が考えられる。
どれも科学的に証明されたわけではないので断定はできない。
しかし、実際に傷が治るという“効果”は、間違いなく体験談として広まっているのだ。

入浴後、ご主人に話をうかがうため、再び本館フロントを訪ねた。
話を聞いているうちに次第に体が温まり、芯から熱を帯びてくるのが自分でもわかる。
お湯で体を温めるだけが温泉の効能でない気がしてきた。
風邪をひいたときに、水風呂に入ったほうが体温が下がり、免疫力が高まるという話を聞いたことがある。それと同じ効果があるのだろうか。

源泉湯守58代目、宿屋8代目当主のご主人の肩越しに、見慣れない木工細工が傾けてあることに気づいた。
そこには高さ約50センチほどの奉納用の松葉杖が。
「治療奉納といって、5月の第三土日曜日に熊野大神社でお焚き上げが行なわれるんですよ。完治された方が絵馬の代わりにこの松葉杖を奉納するんです」

小さな松葉杖は、温泉に対する感謝の印。
ロビーの片隅には、多くの人々が下部温泉に救われたことがわかる、その証しが残されていた。


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源泉館の正面を過ぎ、川を渡る前の右側を真っすぐ進んだ突き当りに町営駐車場がある。
せっかく下部温泉に来たのだから、ぜひ足を伸ばしたいのは霊峰富士。国道300号線・本栖みちを東へ本栖湖方面へ進み、西湖、河口湖北側のルート「湖北ビューライン」は絶好の撮影スポットがいっぱい。湖越しの富士山の撮影ができる。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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