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近ごろ盆栽がブームです。盆栽を育てているという芸人や、盆栽を観に来る外国人の姿がしばしばテレビで放送されます。しかも、2017年4月27日(木)~4月30日(日)は、さいたま市で「第8回世界盆栽大会inさいたま」が開催されます。そこで、盆栽の世界を訪ねてみました。

盆栽には四季と自然の情景がある


さいたま市大宮盆栽美術館の「座敷飾り」


盆栽職人の技が随所に見える
※さいたま市大宮盆栽美術館は基本的に撮影禁止です。今回は特別に撮影させていただきました。


祖父は鎌倉市長谷で開業歯科医をしていた。由比ヶ浜に近いから、夏休みになると祖父の家で数日を過ごした。

日中の祖父は診療室にこもり切りだから、めったに姿を見ることはない。しかし、朝に、夕に、ランニング姿で盆栽に水やりをしていた姿は鮮明に覚えている。

祖父の家にはそれなりに広い庭があり、縁側の近くにイチジクの木が植わっていた。その向こうの四角いスペースに、祖父手作りの棚がきれいに並んでおり、そこに盆栽が何鉢も置かれていた。

その頃の僕は小さかったから、木の種類に興味はなかった。それでも、数本の幹が並ぶ平たい鉢の盆栽や、針金が巻き付けられてぐねぐねと曲がった木の幹はとても印象的だった。

祖父はそこに近寄ることを許さなかった。イチジクの木より先に行くのは禁止されていたのだ。

真夏にジョウロで水を撒き散らす行為は、どんな子どもだって嫌いなはずがない。しかし、「盆栽に近づいてはならない、まして水をやってもいけない」と、祖父から厳しく言われていた。

小学生でもさすがにわかる。この小さな植物は、祖父にとって宝物であって、朝顔のように気軽に育てられるものではないのだ、と。

祖父は歯科医を止めてからもずいぶん長生きをしたが、中学や高校になると祖父の家に行く機会は自然に減った。祖父が他界したのは僕が20歳代の後半だったが、その後、それらの盆栽がどうなったかを知らない。

社会人になった僕は、盆栽との接点がまったくなくなった。

「ほう、盆栽の親分だね、これは!」と思ったのは、15年ほど前に香川県の観光の仕事をした時だった。

高松市にある栗林公園(りつりんこうえん)は、紫雲山を借景に6つの池と13の築山を配した庭園だ。100年以上かけて現在の姿に公園を整備したのは、高松藩主の高松松平家である。

見どころが多い公園だが、そのひとつに「箱松」と呼ばれる、横から見ると箱型をした松がある。かれこれ300年以上におよぶ手入れによって現在の形になったという。

この松が盆栽の親分に思えた。大きさはまるで違うが、祖父が育てていた盆栽にも、似たようなかたちがあったからである。

調べてみると香川県は盆栽の名産地で黒松、五葉松などは特産品となっている。栗林公園の箱松も、盆栽とは無関係ではなかったのである。

一方、関東の盆栽名所といえば、埼玉県のさいたま市だ。ここにはさいたま市大宮盆栽美術館があり、盆栽を育てて販売する職人も多く住む。

中国から平安時代の日本に伝わり、鎌倉時代には武士階級の趣味として盆栽は普及。江戸時代に栽培が盛んになったが、昭和になると育成や水やりの手間が面倒な盆栽の人気は徐々に衰え、一部の熟年層の趣味となる。

その盆栽が再びブームを迎えようとしている。海外でも「BONSAI」として愛され、日本の若い世代も興味を抱くようになった。

盆栽の魅力を再発見したくて、さいたま市に向かった。

盆栽町は散策も楽しい。ただし、駐車場は多くない




盆栽町にある盆栽業者の庭を見学


盆栽の名産地として知られるのが埼玉県さいたま市である。

江戸の大名屋敷の庭園の管理を行っていたのが、団子坂(文京区千駄木)に暮らす植木職人たちだった。 

その後、明治時代になると植木職人の中に盆栽の栽培と管理を主にする職人が出てくる。

大正12年に関東大震災が起き、東京は壊滅的な被害を受ける。

それを機に盆栽業者たちは盆栽を栽培するのによい土と、日当たりのよさ、そして東京からの往来が楽な土地を求め、大宮を転居地として選ぶのである。

大震災の2年後には大宮に自治共同体としての大宮盆栽村が生まれる。

JR宇都宮線の土呂駅と東武アーバンパークラインの大宮公園駅の間の土地で、現在でも数軒の業者が盆栽を育てて販売している。土呂駅に近い一画には、さいたま市大宮盆栽美術館があり、遠来の客を集めている。

盆栽美術館では四季の盆栽や「真」、「行」、「草」の三形式によって作られた座敷と、そこに飾られた盆栽を鑑賞できる。

樹木の幹の「立ち上がり」、「枝ぶり」、「葉」。幹や枝の一部が枯れて白い肌を見せて残る「ジン・シャリ」。幹が垂直に伸びる「直幹」と変化をつけた「模様木」…こういった盆栽で注目すべき点の解説があり、初心者でもわかりやすい。

これらのポイントを知って盆栽を観るのか、そうでないかによって盆栽を鑑賞するおもしろさも違ってくる。

さて、4年に一度開催されているのが「世界盆栽大会」である。

「The 8th WORLD BONSAI CONVENTION」の欧文タイトルがあることでもわかるが第1回の開催地は大宮市。その後にアメリカ、韓国、ドイツ、プエルトリコ、中国などに開催地を移し、28年ぶりの日本開催となる。

メイン会場、サブ会場ともにさいたま市内の施設で、盆栽作家たちのデモンストレーションなどが開かれる。

盆栽初心者には、さいたまスーパーアリーナで記念開催される「日本の盆栽 水石至宝展」がいいだろう。
第8回世界盆栽大会inさいたま「盆栽、~次の100年へ~」
開催日時:2017年4月27日(木)~4月30日(日)
メイン会場:さいたまスーパーアリーナ、大宮ソニックシティ、パレスホテル大宮
サブ会場:武蔵一宮氷川神社、さいたま市大宮盆栽美術館、大宮盆栽村
主催:第8回世界盆栽大会inさいたま実行委員会
共催:さいたま市
http://world-bonsai-saitama.jp/

記念開催 日本の盆栽 水石至宝展
開催日時:2017年4月28日(金)~4月30日(日)
会場:さいたまスーパーアリーナ
入場料:1000円(前売800円)

体験教室で用いた黒松、ヤブコウジ


指導を担当してくれた東野さん


盆栽の極意は水やりにあり


「盆栽の極意は何ですか?」と、盆栽職人に聞いてみた。

「1に水やり、2に水やり、3も4も水やりですね」と、盆栽清香園の堀部和裕さんが言う。

そうだ、確かに祖父も水やりには相当気を配っていた。旅好きでふらりと温泉旅行に行く祖父だったが、盆栽に凝り出してからは旅の数がめっきり減った。

本来なら大きくなるはずの木が、鉢の上で形を整えられながら育てられ、小さいとはいえ無限の世界観を出しているのだ。水やりの回数や量は、もっとも気を配らなければならないのも納得できる。

堀部さんが勤める清香園は、盆栽町を拠点に盆栽を育てて販売し、さらに盆栽町と大宮そごう、渋谷区の表参道で盆栽教室を開催している。

主宰は山田香織さん。清香園5代目家元で、小さい頃から盆栽と共に育ったという。

随時入会が可能な「ビギナーコース」は、年に10回開催される盆栽教室だ。加えて体験教室も開いている。

訪れた時は、中国からやって来たカップルが、12月の課題である「お正月飾りの彩花盆栽づくり」を体験していた。講師の言葉に従いながら、黒松とヤブコウジ、苔を鉢に植えていく。

僕も挑戦してみた。

講師の東野大輝さんの言葉に従って、3年ほど育てた黒松の苗、1年もののヤブコウジの苗を鉢に植える。その後に苔を表面に付ける作業を行う。

約1時間の体験だが、すっかり夢中になった。

この小さな苗が、鉢の上でどんなふうに成長するのかが楽しみになる。

ふと、思った。

盆栽の名品は樹齢が何年にもなる。年輪を確認できないから正確にはわからないが、盆栽美術館にあるものは樹齢100年、200年は珍しくない。

大事に育てれば、体験で作った盆栽も何十年も生きる可能性がある。となれば、盆栽は若いうちに始めたほうがいいのではないか。

そうすれば盆栽の成長を、未来までずっと眺めていられる。それはきっと幸せな気分の素になるはずだ。

ただし、水やりや植え替えといった作業をきちんとしなければならないが…。



盆栽清香園
http://www.seikouen.cc/

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< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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