1. Smart Accessトップ
  2. おでかけマガジン(+バックナンバー)
  3. 森の時間を楽しみながら湯底から湧く湯に浸かる 青森・蔦温泉
「Smart Access」おでかけマガジン 毎月2回、「Smart Access」会員のみなさまへ、旬のドライブ&スポット情報をお届けします。
トップページへ戻る


青森県の八甲田山麓から十和田湖にかけて、極上の温泉地が点在する。湯船の底から泡と一緒に湯が湧き出す「ぶくぶく自噴泉」も珍しくない。蔦温泉もすべての温泉風呂が湯底の、すのこの下から湧く。森の中に佇む温泉はゆったりした時間が流れる。

緑が美しい奥入瀬渓流

レトロ感のある玄関。本館は建造100年を迎えた

男女入替制の「久安の湯」。久安年間に湯治場だったのでこの名が付いた

すのこの下で湯が湧き、大量に前面からかけ流される

緑を前にする休憩所・楓の間

蔦温泉
●住所:青森県十和田市奥瀬氏蔦野湯1
●泉質:ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉(低張性中性高温泉)
●源泉温度:45.4.度
●pH:7.08
●日帰り入浴:10時~15時30分
●入浴料金:800円 TEL:0176-74-2311
※2018年の宿泊営業は4月20日より開始予定


記事を書いている3月中旬。十和田湖の北側にあるブナの森は、まだ雪に覆われて、時を止めていることだろう。
クマは雪の下の穴の中で長い眠りについたまま。冬も活動する小動物や鳥たちも、雪をしのげる場所で、じっと時が経つのを待つ。

花吹雪が都心に舞った後、青森の森は静かに、それでいて確かに、時を動かし始める。

雪が融けて水となって流れはじめ、フキノトウが芽を出す。凍えていた木の枝の先にも、よく見れば新しい緑が育ち始めている。

十和田湖の北側に奥入瀬渓流がある。火山起源の谷にできた溪谷であり、ブナの森に囲まれている。「奥入瀬渓流」と呼ばれる14kmのすべてが森の中にあり、遊歩道も整備されている。

この遊歩道を行くと、他の溪流とは少々異なる部分に気付く。溪谷といえば、岩と岩の狭い箇所もあるため、流れが早いイメージがある。当然、勾配もあり、遊歩道は川沿いの山道になっている。

しかし、奥入瀬渓流は違う。ほぼ水面と同じ高さに設けられ、流れもとても穏やかだ。川底に生えた水草に目をやれば、1mにも伸びた葉が、ゆらりゆらりと水の流れになびいている。葉を切ってしまうほど、水の動きに激しさがない。これなら葉が伸びるわけだ。

蔦温泉はそんな場所にある。ブナの森に囲まれ、近くに奥入瀬渓流の美しい水が流れる。

久安3年(1147)、文献にこの地が湯治場であったことが記されている。「木に絡むツタがたくさんあったから」が、温泉名となった説が有力である。

明治30年(1897)には温泉場としての経営が始まる。

蔦温泉を一躍有名にしたのは大町桂月だ。桂月は明治2年生まれの詩人であり歌人、随筆家、評論家。明治41年に蔦温泉に投宿した桂月は、雑誌『太陽』に「奥羽一周記」と題する紀行文を発表する。これが十和田の名を一躍有名にした。大正10年(1921)に13年ぶりに桂月は蔦温泉を訪ねる。大正12年(1923)には冬籠りをする。

それほどまでに大町桂月は蔦温泉を愛し、その名を日本に広めるのに一役買った。今日、蔦温泉の館内には、没後90年に開館した大町桂月資料館がある。

蔦温泉も長い歴史の中で、大事なものはそのままに、ゆっくりと進化を遂げる。大正7年(1918)に、現在も正面玄関、客室として使われている木造二階建ての本館が完成。それはちょうど100年前の出来事だ。蔦温泉に着いた時に、昔も今も変わらずに100年もの間、客を迎えている建物は、初めての来訪者には少々幻想的。何度目かの客には安心感を与える。
外観は一緒でも、内側には進化も見える。一昨年はベッドを設置した特別室が設けられた。

変らないのは温泉を大事にする“湯守”の心意気だ。

蔦温泉には男女入替制の「久安の湯」、貸切風呂、男女別の「泉響の湯」と、4つの浴室がある。そのすべての浴槽は、源泉の上に設置してある。

湯底に敷かれたブナ材のすのこ。その間から、源泉が湧き出す。つまり、一度も空気に触れていない新鮮な湯で湯船が満たされるのだ。新鮮な湯だから、最初は若干の刺激があり、熱く感じる。しかし、ゆっくり浸かっていると、やがて慣れてやさしい湯なのに気付く。

実際に源泉温度は45.4度、季節によって熱すぎる時は、ブナの森の湧水で調整している。また、pH7.08。決して刺激の強い湯ではない。空気に触れていない鮮度のよさだからこその感覚なのだ。

もう一つ、温泉で感じたのは贅沢さだ。新鮮な湯に浸かれるのも贅沢なら、その貴重な湯が湯船の前面から、惜しげもなくかけ流されるのだ。端っこの一か所のことではない。右から左まで、前面の全体から堰を切った川のように湯が流される。

湯上りには浴室の奥に設けられた「楓の間」でゆっくりしたい。この部屋がいいのだ。まずは欄間のみごとさ。そして、窓の外に広がる緑の世界。奥入瀬渓流と同様、ゆったりとした森の時間が流れている。温泉で火照った身体を、重厚な椅子に腰かけて休ませていると、窓の外をトンボが飛ぶのが見えた。

「ゆったり時間」「寛ぎの時間」などと謳うところは多い。しかし、どこかに“早いもの”がある。たとえば、草原だったら雲の流れを早く感じる。川だったら流れが急だ。周囲がゆったりしていても、落ち着かない雰囲気のところもあれば、経営側に急かされる場合もある。

しかし、ここは違う。深い森の中だから風が木立によって遮られる。奥入瀬渓流のように、ゆったりした川の流れがある。そして、ゆったり入れる極上の湯と、湯上りの時間まで楽しめる空間がある。

長い歴史の中で、蔦温泉は休業していた時期もある。しかし、現在は雪に覆われる冬季以外は新鮮な湯を湛えた温泉湯船が遠来の客を迎える。

ゆったりしたい時にこそ、それに見合った時間をとって訪れたい温泉宿だ。

「おでかけマガジン」より、みなさまへ読者プレゼント実施中!

八戸から国道45号、国道102号、国道103号で八甲田方面へ約60㎞。
首都圏方向からだと東北自動車道十和田南ICより国道103号を28.5kmで十和田湖。国道102号を20㎞で奥入瀬渓流。さらに13kmで蔦温泉。
< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。旅雑誌などに連載中。
  • スポット特集
  • B級グルメ特集
  • オートキャンプ特集
  • レジャー&リゾート特集
  • ロケ地特集
  • 絶景特集
  • 子供といっしょにお出かけ特集
  • 特産品・名産品特集
  • 温泉・スパ特集