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  3. 女将の誠意が心に伝わる自噴する「湯谷の湯治場」島根県・千原温泉
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千原温泉は、島根県のほぼ中央に位置する三瓶山南東の沢谷という山あいにある。かつては温泉宿だったが、現在は日帰り湯の千原湯谷湯治場として、地元の常連さんに愛されている。

千原温泉 千原湯谷湯治場
所在地:島根県邑智郡美郷町千原1070
TEL:0855-76-0334
●泉質:ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉(入浴用源泉) ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(持ち帰り用源泉)
●源泉温度:33.8度
●湧出量:59?/分
●pH:6.5
●日帰り入浴:8:00~18:00(木曜休)
●日帰り料金:大人500円、小学生300円


湯底の小石の間からぶくぶくと源泉が自噴する


清潔でこぢんまりとした浴槽(女湯)。男湯も同じほぼ大きさだ


体を温める五右衛門風呂。男湯側にあり、カーテンを引いて女湯から回りこめる


玄関を入ると呼び鈴が置いてある


脱衣所に向かう途中にさりげなく古い家具が


千原湯谷湯治場の外観。入浴用とは別に持ち帰り用の別の源泉もある

島根県のほぼ中央部にあたる山あいの里に、自噴する温泉があるらしい。

「ぶくぶく自噴泉」を探す旅に出ていた私と共著者は、たったそれだけの情報と温泉名を手がかりに、クルマでその温泉を訪ねることにした。

岡山から広島に向かって、中国自動車道を西へ走る。

カーナビのルート案内では、三次ICで下り、国道54号を北上する道順を示している。

そこからさらに50㎞以上もあり、一般道を1時間以上も走らなければならない。

順当に考えればそれで問題ないのだが、時間に追われていた私たちは、高速道で少しでも近づくことを考えた。一旦松江自動車道で北上し、西へ山越えする道があるのではないか。松江道はまだ整備中で、カーナビには表示されていない。思えばそれが、大きな間違いだったのだが。

無料区間にあたる松江道を北上し、我々がようやく下りることができたのは吉田掛合IC。予定よりもずいぶん北へ来てしまった。途中のICでは、山越えをするルートなどなかったのだ。

そこから国道54号を南西へ戻るように走る。残り45㎞。三次ICからの距離とほとんど変わらない。北上したぶんだけ、無駄に時間を費やしたことになる。

少しでも近道をしたい我々は、それでもカーナビに表示されない裏ルートをひた走りながら目的地に向かった。

掛合町から東三瓶に向かい、上山地区へ。里山を抜け、狭い山道が連続する名もなき道。

最終地点までもう少しというところで、急な落差のある、九十九折になっている山道をどんどん下っていくことになった。

これまでの湯めぐりの経験上、我々にはわかっていた。この山道を下りきったところに川があり、そのすぐそばに温泉が湧いているということを。

案の定、そこには川が流れていた。看板のヒントを見落とさないように慎重に車を走らせると、ようやくそれらしき建物が見えてきた。

川沿いにある、赤い屋根の大きな建物。
それが目的地の千原温泉だった。

玄関にまわると、生花が飾られるなどきれいに整頓されており、呼び鈴が置いてある。

ちりん、と鳴らすと奥から女将の田邊文子さんが出てきた。

予定をずいぶんオーバーしてしまい、早速お詫びする。道順を説明すると裏道で来たんですね、とびっくりされた。

千原温泉の開業は明治18年。三瓶山南麓、江川支流の渓流沿いに、川底と同じ高さで温泉が湧き出しており、田邊家から分家した初代がここに宿を建てた。

切り傷、やけど、皮膚病に効く「湯谷の湯治場」として、地元の人々に親しまれてきた。

昭和50年代までは湯治宿を経営していたが、現在は名称を「千原湯谷湯治場」とし、日帰り入浴だけの営業になっている。女将さんは3代目だ。

早速お風呂に案内してもらうことにした。

靴を脱いで縁側を進むと、格子状になった木造の脱衣ロッカーがあった。

木の扉を開けると茶褐色の湯の色が目に飛び込んできた。
浴槽は3畳ほどだろうか。

湯面にはところどころで気泡が立ち上り、この浴槽の湯底から温泉が直に湧いていることが一目でわかる。

湯温は約34度。
ぬるめだが、ゆっくり入るにはこれぐらいでもいい。

それにしても、この温泉濃度の濃いこと。なめるとわずかな酸味と苦味があり、塩気も感じられる。

湯底は小石と砂が敷き詰められていて、その合間からぶくぶくと気泡とともに湯が湧き出てくる。

湯が新鮮な温泉ほど、気持ちのいいものはない。

それでも温まらないという人のために、冬季には五右衛門風呂が用意してある。

ひとりぶんの大きさしかないが、薪を焚いた遠赤外線の効果からか、湯上りでも体がぽかぽかと温まってくるから不思議だ。

この五右衛門風呂は男女兼用となっており、女性風呂のほうからしか開かない引き戸を使って、カーテンを覆って入浴できる。

じつはこの湯治場も、存亡の危機があった。
女将さんは松江で働いていたのだが、親が倒れたことで実家に帰らざるを得なかった。

一時は営業を辞めようと思った。
しかしそれを考え直すことになったのは、貴重な自噴する温泉の存在と、廃業を心配する地元の常連さんの声だった。

「子どもの頃、こんな色のついているお風呂なんていや、と思ったんですけどね。もっと透明な、ふつうのお風呂に入りたいって」

自嘲してそう笑う女将さんだが、この湯治場には、彼女の並々ならぬ決意が感じられるのだ。

タンスや家具などの調度品の置き方や、鉢植えや生花の飾りつけ。
清潔な浴場。
いやらしさを感じない丁寧な案内書き。
廃材が目につかない建物周辺の整頓と、さりげない草花。

そのひとつひとつに、心が込められている。

自噴泉の恵みへの感謝と、そこを訪れる入浴客に対する誠意というものだろうか。
きっと子どもの頃には理解しえなかった、さまざまな思いが、この湯治場には込められている。

いつかまた、ここに来たい。
これからも湯治場が長く続くことを願いながら、温泉をあとにした。


「おでかけマガジン」より、みなさまへ読者プレゼント実施中!

●広島方面から
国道54号「道の駅赤来高原」より300m松江側より左折し、すぐの角を右折。県道166号(美郷町方面)に入る。さらにおよそ15分で「千原八幡宮」先の橋を渡って右に入り、山道を4㎞。 看板を見落とさないように。県道から分かれて1㎞ちょっと進むと、上と下の道に分かれる。必ず下側(すぐ先に家がある)の道に入ること。
●大田市方面から
国道365号・美郷町粕淵よりバイパスに入り、浜原トンネルを抜けすぐ左折。 また、県道166号。3㎞で花田商店前四つ角を左へ、そこから4㎞。

現在、県道166号(飯南町赤名~美郷町粕淵線)沢谷から千原温泉に通じる道路は災害のため通行止め。国道54号、375号などからの迂回路は県道40号経由で、大田市三瓶町志学~上山地区からの林道を迂回のこと。

< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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